ある晴れた日・・・らしい。カーテンを全て閉ざしているので、外の様子は分からない。白い部屋の壁しか見えない。
「ひまだね」
 腕の中の彼女がそうつぶやく。
テレビを見るでもなく、どこかへ遊びに行くでもなく・・・、ただ俺らはこの部屋の中で、話をしていた。
本当に、くだらない話を淡々と話す。
付き合い始めた頃から、今までの話を・・・。
 でも、ある話だけは話さない。
街中で一度だけけんかした事だけは・・・。
「あ、今度駅前にできたケーキ屋さんに行きたい」
 ・・ケーキ屋ができたのは一年も前の事なのに・・・。
「ああ、今度な」
 笑顔で答えてやり、彼女を抱きしめる。
彼女は俺の手をやわらかくつかむ。
「今度って、全然連れてってくれないじゃない」・・連れてって行きたいんだけどな・・・。
泣きそうになりながら、俺は彼女を強く、まるで存在を示すかのように抱きしめる。
彼女をここにいさせる為には、世間から全てをさえぎらなくてはならない。
「あそうだ。何か、変なの思い出しそうなんだけど・・・、何かね、車が・・・」
 彼女の言葉をさえぎるように、唇でふさぐ。
「・・・そんな事、思い出さなくていい」
 思い出してしまったら、彼女は消えてしまうから、俺は自己満足の為に彼女に隠している事がある。
それに彼女は気付いていない。
彼女の腕から体にかけて、車のタイヤの跡がある事を。そして、彼女から体温を感じられない事を・・・。