「近代以前日本児童文学講義」という授業を担当していますが、今年は、レポートだけでなく、勉強した江戸時代の絵本「赤本」を模した絵本を制作し、制作過程と共に提出してもよいということにしました。
このようにしたのは、授業で題簽を作ってもらったことがきっかけでした。題簽とは、書名を木版で刷ったもので、これを表紙に貼ります。題簽の中には、本の中の絵の一つが描かれていることが多いのです。授業で取り上げた作品に題簽が失われているものがあったので、それを工夫してもらったのです。学生の作品には、実に様々な絵があり、その発想のおもしろさに感心しました。
そこで、赤本を作ってもらおうと思ったのです。この方法はすでにかなり前に木村八重子先生が白百合女子大学でなさっていたのですが、私はなかなか踏み切れませんでした。ついつい堅苦しく知識やレポートにこだわっていたのです。でも、今回レポートか絵本を選んでもらったところ、ずいぶんたくさんの赤本が提出されました。おもしろい作品がたくさんあり、嬉しい限りでした。
今回の赤本は、江戸時代の赤本の形式を利用することが条件で、内容は何でもいいのです。江戸時代の作品を模しても、アレンジしても、外国の話を展開させても、オリジナルの話でも、何でもいいことにしました。
学生の発案だと聞いていますが、幸いなことに先日の学園祭で、絵本制作展の中に展示することができ、いろいろな方々が興味深く読んで下さっていました。そこで、このブログでも紹介したいと思い、作者から許可を得たものから少しずつご披露します。
さて、Mさんの『向ふ横丁』です。「向ふ横丁のお稲荷さんへ……」の歌をアレンジし、江戸時代の風俗を描いていますが、新しいセンスが感じられます。表紙の題簽に登場する犬がすべての場面に登場して、作品の一貫性を担っているのですが、その表情のかわいらしさとしぐさに惹きつけられ、実は読者はこの犬になって作品の中に引き込まれていくのではないかと思います。つまり、この犬が現代と江戸を結びつけています。そして、最後にはさわやかな落ちもあって、楽しい作品です。表紙をめくった裏側を見返しといいますが、そこにも江戸風のデザインを取り入れ、こだわっています。洒落た作品です。
表紙
見返しと1丁表(今の1ページ)
1丁裏・2丁表(今の2・3ページ)
次は、Oさんの『化けくらべ』です。狸と狐が化け比べをしていくのですが、何とも言えないユーモアがいい味を出しています。見開きとページ送りがうまく利用されて、何に化けるかとわくわくと楽しい驚きが続いていきます。しかも、化け方はだんだんグレードアップし、作品に盛り上がりが仕組まれています。読者がわーっと喜ぶ現在の人気者が化け姿として出てくるところがおもしろいのです。この流行を取り入れるという手法は、意外かもしれませんが、江戸時代の赤本にもあるものです。赤本にあったこの手法をうまく活かしているのです。
1丁裏・2丁表(今の2・3ページ)
4丁裏・5丁表(今の8・9ページ)
Mさんも、Oさんも絵本制作を勉強しているのですが、その経験とセンスが、赤本への理解とあいまって、新たな絵本を作っています。その作り方に、赤本の本質をつかんでいることがわかって、ますます感心しました。今回提出された制作過程にも、多くの作者が赤本の本質に触れているところがあり、嬉しく思った次第です。


