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梅花ブログ

加藤康子さんのブログ

人と驢馬との事 2006年11月30日(木)

 金曜日の3講に「近代以前日本児童文学講読」を開講しています。順番に『万治絵入本 伊曾保物語』の各話について発表してもらっています。その後に、参加者全員でその話や発表について意見を言い合います。いつもいろいろな意見が出てきておもしろいのです。
 先日、『人と驢馬(ろば)との事』を取り上げたのですが、この話が、古典なのに今の世相にぴったりの内容なのです。短いので、全文を紹介します。

 ある時、人、驢馬(ろば)に荷を負(おお)せて行くに、この驢馬、やゝもすれば行きなづむ事あり。この人、「奇怪(きっかい)なり」とて、いたく鞭(むち)を負せければ、驢馬申しけるは、「かゝる憂目(うきめ)に逢はんよりは、しかじ、たゞ死なばや」とぞ申しける。かの人、猶(なお)、いたくいましめて追いやる程に、行き疲れて、終(つい)に命終りぬ。かの人、心に思ふやう、「かゝる宿世(しゅくせ)つたなき者をば、その皮までも打ちいましめん」とて、太鼓に張りて、枹(ばち)をあてけり。
 その如(ごと)く、人の世にある事も、聊(いささか)の難艱(かんなん)なればとて、死なんと願ふべからず。何しか命の終りを待たず、身を投げなどする事は、至って深き罪科たるべし。これを慎(つつし)め。

 ことばは古いのですが、辛い思いをしている人に死んではいけないと呼びかけているのです。この話を担当したAさんは、現代の子ども達の自殺の報道にこれを重ね合わせて、この古典がにわかに身近なものとなったと報告しました。これをきっかけに皆が次々と意見を述べました。古典を現代に読む意味が実感できた時間でした。

卒業生からのコメント?演劇活動? 2006年11月29日(水)

 卒業生からコメントが届きました!!
 ありがとうございます!!
 卒業後、演劇活動に頑張っている黒田沙織さんです。以前、このブログでも「演劇活動」(10月8日付)でご紹介した方です。現在、劇団銀河に所属されています。最近では、下記の公演にも出演されていました。児童文学科では、在学中、卒業後に演劇活動に関わる方々がおられます。表現の一つとして、演劇は大変魅力的ですし、奧も深いですから、コメントにあるように熱心に取り組まれるのだと思います。黒田さん、健康に留意されて、是非是非前進されますよう。公演の情報もお寄せ下さいね。

空と大地とボクとキミ
開催場所:豊中市立ローズ文化ホール
開催日:2006年10月28日(土)?2006年10月29日(日)
『空と大地とボクとキミ』
あらすじ:2156年10月、よしきは26歳の誕生日に彼女ルナを宇宙旅行に誘った。火星に広がる巨大歴史ジオラマを見学しながら、プロポーズをするために・・・。その旅行先で二人を待ち構えていたことは!環境問題も視野に入れた劇団銀河初SF的ラブファンタジー!!
主催者名 劇団銀河/豊中市

黒田沙織さんからのコメント

気付けばもう卒論・卒制題名申請の時期なんですね。
卒論に追われたあの日々がもう2年前だなんて信じられません。
大学を卒業してから早2年目が終わろうとしているなんて。
冷静に考えると、先生のゼミ生だったわけではないのに
2年前に卒業した私のことを覚えて下さっていたなんてとても嬉しいことですね。
ありがとうございます。
当時は…と言いますか、
今も目立つタイプではない私ですが
高校生の時から好きだったことを職業にしようと前進しているところです。
文章を書くこと? 興味有るものを追究すること? 物事を表現すること?
大学では物事を追究し論文にしたり、文章で表現したりしてきました。
とてもよく似ていることです。
今、私は全てが組み込まれている、頭からつま先まで全身を使い表現しココロで物事を追究する、
カッコよく言えば舞台役者を主に芸能活動をしています。
大学を卒業してそんなことをしているなんて、という言葉を浴びさせられる事もありますが、
芝居をする上で、今までの経験は全て糧になっています。
人生一度きり、我慢して後悔するのは嫌なので、これからも日々前進です。
芝居をしていることで先生が私の活動を知ってくださり
再び連絡を取り合うことが出来て光栄です。

秋季学術講演会と児童文学研究発表会 2006年11月28日(火)

 12月2日に、梅花女子大学・大学院主催の児童文学会児童文学会第15回秋季学術講演会と第22回児童文学研究発表会が下記のように開かれます。是非ご参加下さい。

第15回秋季学術講演会のお知らせ(児童文学会)

日程   12月2日(土)
時間   13:00?14:30
場所   本学F棟701教室
講演者  本学教授 三宅興子先生
演題   「子どもの本と50年?イギリス児童文学史再構築論への道程?」
申し込み不要、参加無料

今年は、本学教授の三宅興子先生に、2007年3月のご退職にあたり、記念のご講演をしていただきます。三宅先生は英語圏児童文学、絵本を主なご専門とされ、『イギリス児童文学論』、『イギリス絵本論』、『イギリスの絵本の歴史』などをはじめ、多数の著書を執筆されています。また、ご研究活動のかたわら、環太平洋児童文学会議実行委員長、日本イギリス児童文学会会長、絵本学会会長、日本児童文学学会理事などを歴任、梅花幼稚園こうめ文庫設立などにもご尽力され、児童文学に関わる広い領域でご活躍されてきました。今回は、「子どもの本と50年?イギリス児童文学史再構築論への道程?」と題して、お話をしていただきます。

同日、本学の大学院生、研究生、学部生による、第22回児童文学研究発表会を下記のように開催いたします。こちらもご参加下さいますようお願いいたします。

日程  12月2日(土)
時間  10:40?12:10
場所  本学F棟702教室
発表  
1.「P.L.Travers; Mary Poppinsシリーズの本質?Mary Poppinsの導きによる子ども達の成長?」 
飯田美帆(大学院研究生)

2.「Clockwork or All Wound upにおけるPullmanの物語作り」 
小山明代(大学院博士後期課程1年)

3.「民話絵本『スーホーの白い馬』の成立背景」 
ジミンゴア(大学院博士後期課程1年) 

卒論・卒制題名申告を済ませましたか? 2006年11月27日(月)

 今週の木曜日、11月30日が卒論・卒制題名申告の締切です。

 4年生の皆さん、題名申告の用紙に題名を記入し、演習の担当の先生に相談しましたか?書名、押印をもらいましたか?そして提出しましたか?

 提出先は、演習の担当の先生です。
 用紙は演習の先生から配布されているはずですが、どうしてもという場合は、コミュニティルームに行って下さい。少しだけ用意してあります。

 手続きは、大切です。書式、期日を守らないと受け付けてもらえません。卒論、卒制の提出も同じです。どうか遅れないように十分注意して下さい。

卒業生からのコメント?学校司書? 2006年11月26日(日)

 卒業生の皆さんがどのような活動をされ、どのようなことを感じ、考えておられるのか、そのようなことを伺うと、ずいぶん励まされたり、嬉しくなったりします。そんなことを紹介できればと思っています。
 先日、久々にお会いした卒業生が、日々の仕事に熱心に取り組まれていることを伺い、コメントをお願いしました。早速、届いたコメントをご紹介します。

板垣晴子さんからのコメント

 大学を卒業してから中学校にある図書館で学校司書として働いています。

 学校図書館は、児童文学科で学んだ事を活かす事ができる場なので、在学中に吸収した事を反映させながら図書館運営をしています。
 例えば、私が勤務するまでの間あまり利用されていなかった絵本を利用しやすい場所へ移動させ、表紙が見えるよう配架しました。中学校の図書館に絵本がある事を珍しがっている生徒もいましたが、今では自然と手に取るようになりました。一人で静かに読んだり、読み聞かせをしたり…と思い思いに絵本の世界を楽しんでいます。

 学校図書館に配置されている司書は1人なので、ほとんどの業務が私の仕事になります。資料の貸借手続き、読書や調べ物の相談といった利用者と直接関わる業務、購入する本の選書、新しい本の登録や装丁、環境の整備、広報誌の作成といった利用者の目に届かないものも多々あります。
 周囲が思っている司書の仕事と実際の司書の仕事に差異があるので理解されにくい事もありますが、取り組んだ分だけの反響の得られるこの仕事にやりがいを感じています。

 学校図書館を通じて、読書や図書館を利用する愉しさを感じてもらえるようできる事から少しずつ取り組んで行こうと思っています。

ももんがより

 板垣晴子さん、お忙しいところをコメントを送って下さって有り難うございます。
 児童文学科では、司書の資格を取る人がたくさんいます。児童文学を学び、物語や絵本を創作し、絵本の読み語りなどを勉強している児童文学科の皆さんは、「児童文学に強い司書」として、特性を身に付けられていると思います。それを活かした仕事をされる方々も増えてきました。学校司書はその代表ですね。それをめざしている後輩もいますし、現在その仕事に取り組んでいる卒業生もいます。その方々が、互いに情報交換をしていけたら素晴らしいなと思います。
 仕事についてからこそ勉強の必要が感じられ、仲間が欲しくなります。板垣さんのコメントに同感し、エールを交換したい思いの方々もいらっしゃると思います。どうぞ、このプログでも、ももんがのメールアドレスでも、コメントをお寄せ下さい。

研修旅行とワークショップ 2006年11月25日(土)

 ヨーロッパ児童文学研修旅行にも、新井良二先生ワークショップにも参加されたOさんが両者の写真を届けてくれました。Oさんは、絵本制作展実行委員の中心メンバーでもあり、写真部のメンバーでもあり、有志の絵本・雑貨制作販売集団「ぬんそるぺ」のメンバーでもある、魅力的な方です。ご厚意に感謝しつつ、ご紹介します。

 ヨーロッパ児童文学研修旅行は、児童文学科の授業ですが、隔年に開かれます。ヨーロッパの風土と人に接し、作家と出会い、作品の背景を旅する、素敵な旅行です。今年度は近藤眞理子先生が担当で、旅行には田中裕之先生も同行して、充実した旅行だったとのことです。
 この旅行については、「梅花プログ」でしおさんが連載されています。出発二日前から写真入りで、その様子を伝えてくれています。最初のページは、http://blog.drecom.jp/nyahunta/archive/38です。「ぬんそるぺ」の皆さんはこの旅行に参加していて、ヨーロッパでの経験が、今回の制作の基になっているそうです。

 新井良二先生のワークショップについては、既に下記のページでご紹介したのですが、最後に先生が参加者の作品を講評している場面がありませんでした。Oさんはそこを提供して下さいました。(http://blog.drecom.jp/ykato/archive/239)

 ありがとうございます!

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リュウ、噴水を作る 2006年11月24日(金)

 子どもに何を期待するのか、このことは難しいことです。過度な期待は、子どもを押しつぶすし、そうかといって、ほったらかしは意欲をそぎます。何かに夢中になってもらいたいと思うものの、元気でいれば、生きていれば、と願うこともあります。息子が生まれるとき、父親は五体満足でなくてもいい、母体が無事ならばと名言を言って、同僚の女性教師をうならせたことがありました。今、そのことをしみじみと思い出します。そう思われて生まれた子どもに、ついついいろいろなことを背負わせてしまいます。息子は器用な子ではありませんでした。人前で頑張ることも、人前に出ることも、なかなかできず、それでいて、注目されたい気持ちは持っていたように思います。その気持ちを実現させるように応援をしてやれませんでした。結局本人の目覚めを待ちました。

〈メモ帳より〉
リュウは小学校の6年間ずっと同じクラスで過ごした。
町中の過疎地域。
30余名は親密に育った。
その中で、リュウは目立たず、皆に守られていた。
リュウは中学の時、読書感想文で賞状をもらった。
おかあさんが渡してくれた『またおいで』がおもしろくて、
自然に書けたものが選ばれて嬉しかった。
数学の時間に全員がグラフコンクールに応募することになったとき、
おじいちゃんに教えてもらって、うまくできて嬉しかった。
でも、物足りない。
二回目にグラフコンクールに応募するときは、
グループの子どもたちだけで作って、楽しかったけれど、
最後までみんなで歩調を合わせることはできなくて、
ちょっと残念だった。
自転車に乗りたくても、許してくれない。
友だちのに乗っていて見つかって、怒られた。
高校に入ってバンドを作ろうとしても、許してくれない。
遅く帰って、怒られた。
段々面倒くさくなった。
怒られることは、避けようか。
段々ばかばかしいことは、避けるようになった。
そして、高校の三年生の文化祭。
リュウは突然噴水作りに燃えた。
徹底的につきあってくれる友達もいた。
かわいい後輩もいた。
認めてくれる先生もいた。
教室には噴水ができた。
色がついた光に照らされて水が吹き上がる。
教室は静かな公園になった。
おかあさんは見に来て、喜んで、
挙げ句に、文化祭後、噴水に使ったコンクリートブロックやレンガを、
嬉しがって、大阪に持っていった。
噴水作りはリュウにとって大きな意味があった、
とリュウもおかあさんもおとうさんも思っている。
自信がついて、リュウは一人で長野に行った。
おとうさんもおかあさんもリュウを見送った。
リュウは噴水を作って、独り立ちした。

リュウ、怒る 2006年11月23日(木)

 働いているおかあさんには、いろいろな悩みがあるでしょう。これをどう解決するのか、それはそれぞれのケースで異なるのだと思います。自分の経験から意見を言っても、それは一つの経験でしかなく、他のケースにも通用するとはかぎりません。でも、互いの経験を知り合うことは、力にはなるかもしれません。また、家族や地域の人々が力を貸してくれたり、その好意に感謝したりする中で、解決することもできるのではないかと思います。そして、一つの価値観、一つの解決法だけではないことを、皆がゆとりを持って思ったとき、よりよい策が見つかるかもしれません。

〈メモ帳より〉
リュウはイライラしていました。
なぜかはっきりしないけど、ムカムカします。
おかあさんが忙しいのです。
おかあさんの心がどこかに行っています。
そういうとき、リュウは熱が出たり、アレルギーが出たりします。
おじいちゃんやおばあちゃんも具合が悪くなります。
おとうさんの機嫌も少し悪くなります。
でも、今日はリュウがイライラしています。
あんまりイライラしたので、つい友達の上履きを学童の時間に、
学校のプールに投げ込んでしまいました。
先生に怒られ、友達に謝るように言われました。
でも、先生はわかっていました。
連絡ノートにそのことを書いてくれました。

今日もリュウはイライラしています。
おかあさんはいったいどうなっているんでしょう。
今日は、小さな子の帽子をトイレの便器に入れてしまいました。
そんなことをしてもイライラはなおりません。
先生は言いました。
「おかあさんに、言いたいことを言いなさい、ね。」
家に帰って、おかあさんに言いました。
「お仕事止めて。」
おかあさんは、目を丸くしてしばらくだまっていましたが、
ゆっくりと口を開きました。
「おかあさんにはおかあさんの道があるのよ。」
だめだこりゃ、リュウは少しおとなになりました。
おかあさん、ぼくにも、ぼくの道があるんだよ。

でも、おかあさんも少し考えたようです。
一緒にテレビを見て、リュウが好きなぴちゃぴちゃごった煮を作ってくれました。
別にすごく好きというわけではありませんが、
これを食べるときは、何となく家の中が落ち着いているんです。

リュウ、水をまく 2006年11月22日(水)

 親は子どもの気持ちを考えているつもりでも、なかなかその核心をつかんでいないものです。よく子どもの気持ちをつかんでいる方には、本当に敬服します。自分の都合を考えず、相手のことを優先させているのでしょう。私は、どうも自分のことがちらちらして、子どもに我慢をさせていたことが少なくありませんでした。

〈メモ帳より〉
朝、いつものように、リュウは保育園でおかあさんと別れました。
おかあさんは朝のおしたくをすますと、リュウの姿を捜しました。
部屋のすみに保育園の先生たちが牛乳パックで作った小さな椅子が置いてありました。
その椅子にリュウはぽつんと座っていました。
「行ってくるよ。バイバイ。」
おかあさんが手を振りました。
リュウはその姿をじっとみていましたが、
笑うことも、手を振ることもできませんでした。
座っているだけで精一杯でした。
何だかぼうっーとしていて、元気が出ません。
おかあさんは走って駅へ、電車に乗って、乗り換えて、
また乗って、走って勤め先に着きました。
しばらくすると保育園から電話がかかってきました。
「リュウくん、熱が出ています。」
まずは、おばあちゃんに迎えに行ってもらいます。
それから、おかあさんが駆けつけます。
リュウの熱はなかなか下がりません。
病院のいつもの先生が、じっとリュウをながめ、おかあさんと目を合わせました。
「お預かりしましょうか。」
「そうですか、よろしくお願いいたします。」
リュウは入院です。
おかあさんは出張でしたが、熱が下がらないので、
病室でリュウを抱いていました。
出張は取りやめです。
おとうさんも、おじいちゃんも、おじさんも、のぞきに来ました。
おばあちゃんも、おばさんも、訪ねてきました。
でも、夜は一人で寝ます。
八時になると、面会に来ていたおかあさんもおとうさんも帰ります。
あっちでも、こっちでも子どもが泣いています。
リュウは我慢していました。
二、三日して、熱は下がってきました。
午後の面会時間に勤め先からおかあさんが来ると、
ベッドの下に新聞紙が敷かれていました。
「どうしたんですか。」
「水をまいちゃったんですよ。ストレスでしょうね。さっき、川の土手をお散歩してきたんですよ。」
リュウは何事もなかったように、絵本を見たり、ゲームをしたりしていました。
おとうさんが来て、一緒に自動車で遊んでいました。
明日からは、大部屋で友達と一緒だそうです。
翌日、おかあさんが来たとき、
おやつの時間に友達と一緒に食堂でゼリーを食べていました。
十日ほどでリュウは退院しました。
また、朝は大急ぎで保育園へ行きます。
先生が迎えてくれました。
「リュウくん、元気になったー?ひさしぶりだね。」

リュウ、塀から落ちる 2006年11月21日(火)

 子どもには神様が付いている、と母は言っていました。それを実感したことは何度かありました。もう少しずれていたら、死んでいたかも知れない、そんな危ういことがいくつもあります。この先はどうなるのか、いつも先を読むようにしていても、気が抜けたときに何かが起こります。そんな物語です。

〈メモ帳より〉
リュウは学童保育で友達二人ととなりの小さな公園に来ました。
ブランコとトイレがあるだけですが、
学童保育の部屋のとなりで、二つの道の間にあって、
それでいて人目が届かない特別の場所。
ちょっとわくわくする冒険の空間。
今日は、元気な友達と共に塀によじ登りました。
塀の上を歩くのはちょっと怖くて、ちょっと楽しくて、
見えるものも全く違います。
そろそろ学童の部屋に帰らなくちゃ。
少し慌てて、塀から降りようとしました。
ずるっ、ずるっ、ずずずるっー、クサッ。
何か熱いものを足の付け根に感じて、
塀の下にずり落ちました。
動けません。
「大変だ、リュウが刺さってるうー。」
塀の下に植わっていた植木は切りそろえたばかりでとがっていました。
その上にリュウはずり落ちてしまったのです。
ももの付け根にその植木が刺さったのです。
二人の友達はリュウを心配そうにのぞき込みました。
「抜かなくちゃ。」
三人は一緒にそう思い、一気に抜きました。
リュウは何だかよくわかりません。
痛いような、熱いような。
「先生、たいへんだあ。」
二人が先生を呼んでくれました。
リュウもゆっくりと学童の部屋に向かいます。
それからは大騒ぎです。
先生は、自転車にリュウを乗せて近くのお医者さんに運びました。
別の先生は、おかあさんの勤め先に電話をしました。
リュウはお医者さんで、手当を受けました。
何だかぼうっとしていると、おかあさんが飛んできました。
「おかあさんは外にいて下さい。」
看護婦さんが言います。
治療が終わって、先生が貸してくれた自転車にリュウは座って、
お母さんが押していこうとしました。
その頃になって、足の付け根、下腹が焼け付くように痛くなってきました。
自転車では痛くて痛くて我慢できません。
半泣きになりなりました。
自転車をお医者さんに預けると、
お母さんはリュウをタクシーに乗せて帰りました。
それから三日、リュウは学校を休んで、
お医者さんに通い、家で寝ました。
傷口は、リュウには見えません。
お母さんも消毒の時に見せてもらえませんでした。
傷口がふさがっても、柔らかいももの内側に、傷はずっと残りました。
一年後、お腹が痛くなったリュウをいろいろなお医者さんが調べて首をかしげました。
最後に背の高い年を取った先生が、
一年前のことを聞いて、
リュウの下腹に小さくメスを当てました。
その下から、リュウの体内に残っていた植木のかけらが出てきました。
リュウの体が一年かけて、
体内に散らばっていた植木のかけらを集めたんだそうです。
傷口の消毒に通っているリュウに、別の先生が言いました。
「気をつけなきゃ、死んじゃうよ、きみ。」
おかあさんはこの時も診察室には入れてもらえませんでした。
それから10年以上経ちました。
もう、すっかり大きくおとなの体になったリュウのももの付け根と下腹には、少し小さくなった傷跡が残っているそうです。